大学卒業後、一旦は埼玉で就職した榊さんですが、就職先に違和感を抱き退職。その後、社会のあり方や地域について語るいわきの人たちに出会い、榊さん自身もそうしたテーマに関心を持っていたことから、もっとこの地域のことを知りたいと、8ヶ月間いわきの温泉旅館に住み込みで働きました。
その後、埼玉に戻って大学院に進み、漁業とまちづくりについての研究をしていた折、いわきのとあるNPO法人から、久之浜のまちづくり事業に関する相談を持ち掛けられます。自身の研究内容や久之浜で出会った人たちのつながりから、「久之浜で何かやるなら、漁業の活性化や子どもを絡めた食育とかかな」などと提案していくうちに、そのプロジェクトに主体的に関わることに。魅力を感じていたいわきの漁師のために何かできるかもしれないと、再びいわきへ戻ります。
「埼玉にいた頃は、やりたいことはあっても、具体的に何をしていいのかわからない状態でした。しかもそのタイミングで失恋して、関東での生活のビジョンが描けなくなっていたんです。だから、今しかない!と思いました」と当時を振り返る榊さん。プロジェクト期間は1年間。まずは1年やってみようというワクワク感を持って飛び込んでみたといいます。
2017年にNPO法人ワンダーグラウンドの職員となった榊さん。プロジェクトを進めるに当たり、「とりあえず船に乗ってみる?」と声をかけてくれた若手漁師の遠藤洋介さん――後に、一緒に会社を立ち上げることになる――の言葉に押され、漁師の仕事や想いを学ぶため、自らも漁船に乗り始めます。
「漁師のみんなが見ている景色を一緒に見たい。現場を知り、一緒に仕事をすることでしか信頼は得られない」と、1年間船に乗り続けた榊さんが得たものは、漁師たちからの信頼。そして、「漁師ってカッコいい!」ということを多くの人に、特に地元の子どもたちに伝えたいという想いでした。