━━自分のこと
私は1996年3月に生まれました。実家は「おのざき」という鮮魚店を営み、市内の大型ショッピングセンター内に、新店舗をオープンさせた頃のことです。曽祖父が創業したのは1923年ですから、当時既に創業73年。なかなかの老舗ではありました。
姉が2人いるのですが、幼い頃から母に「いずれは長男のあなたが店を継ぐのよ」と言われていました。自分でもぼんやりと、そういう将来をイメージすることはありましたが、正直、「おさかなやさん」という言葉の響きにはあまり魅力を感じられずにいました。たまに連れられて行く東京の華やかさに圧倒され、東京で暮らしたい、職を持ちたい、との思いが常にありました。
念願叶い志望大学に合格し、縁あって住むことになった西荻窪の街は、楽しく、刺激的で、温かい街でした。その頃お世話になった方々とは今も交流があります。このまま東京に暮らし続けることも真剣に考えていました。
しかし一方で、いわきから離れていればこそ、ふるさとの良さを再発見する機会も増えました。
たとえば、東京出身の友人たちにとって「帰省」や「故郷」という言葉には、ある種の憧れにも似た思いがあるのだそうです。帰省時に羨ましいと言われたり、彼らが実家に遊びに来てくれた際に、口々にいわきを褒めてくれるのを聞いたりして、今まで何とも思っていなかった「いわき」という地に、大きな魅力と可能性を感じる様になりました。
また、私自身、旅好きなのですが、その頃はどこに行っても街の景色が画一化されているというか、その土地ならではの特色が薄れつつある様に感じていました。裏を返せばいわきは、震災後もまだまだ「独自性」を保ち続けている街でした。